「月商100万円!」に惑わされるな。
ビジネスで本当に見るべき数字は売上より利益
「月商100万円を達成しました!」
SNSで、こんな投稿を見たことはありませんか?
大きな売上を見れば、「すごい!」「自分もこんなふうになりたい!」と感じるかもしれません。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。
その人の手元には、いったいいくらのお金が残っているのでしょうか?
売上が大きいことと、ビジネスでしっかり利益を出せていることは、同じではありません。
今回は、会計の基本と行動心理学から、ビジネスで本当に見るべき数字について考えてみます。
1.売上1億円でも、赤字になることがある
まず、基本を整理しましょう。
売上:商品やサービスを販売して得た収益の総額
利益:売上から、会計上の費用を差し引いたもの
例えば、次の2つの事業を比べてみます。
項目
Aさん
Bさん
売上
1億円
500万円
経費
1億1,000万円
300万円
利益
▲1,000万円
200万円
Aさんは1億円を売り上げても、費用が1億1,000万円かかれば1,000万円の赤字です。
一方、Bさんは売上500万円でも、200万円の利益を確保しています。
もちろん、事業規模や将来への投資、成長段階が違えば、単純に優劣はつけられません。
しかし、少なくとも「売上が大きいから成功している」とは判断できないのです。
中小企業基盤整備機構も、売上高だけでなく、利益率や資金繰り、安全性など複数の指標から経営状態を確認する考え方を示しています。
つまり、売上は重要な数字ですが、それだけで事業の健全性を判断するのは危険なのです。
2.なぜ私たちは「売上の大きさ」に惹かれるのか?
ここで、行動心理学の視点を取り入れてみましょう。
人間は、複雑な情報をすべて分析するのではなく、目立つ数字や印象的な情報を判断材料にしやすい傾向があります。
例えば、「月商100万円」という数字は、一瞬で理解できます。
一方で、原価、広告費、送料、システム利用料、税金、作業時間などを確認し、実際の収益性を判断するには手間がかかります。
このとき、目立つ情報に判断が引っ張られ、見えにくいコストを十分に検討できなくなることがあります。
さらに、SNSでは成功を印象づける投稿が目に入りやすく、売上の数字が華やかに見えることもあります。
ただし、投稿を見ただけでは、その人の利益や借入金、継続性までは分かりません。
「月商100万円」という情報は、その事業の全体像ではなく、一部分にすぎないのです。
では、あなたが副業や新しいビジネスを選ぶとき、目立つ数字だけで判断していないでしょうか?
3.売上を追うほど、苦しくなることもある
売上を増やすこと自体は悪くありません。
問題は、利益を確認せずに売上だけを追いかけることです。
例えば、売上を増やすために広告費を増やし、値引きを繰り返し、作業時間も長くなったとします。
売上は伸びても、費用がそれ以上に増えれば、利益は減ってしまいます。
さらに、利益が出ているように見えても、売掛金の回収が遅れたり、借入金の返済が重かったりすれば、手元の現金が不足する可能性があります。
日本政策金融公庫も、会計上の利益と実際の現金の動きは一致しない場合があると説明しています。
つまり、確認すべきなのは利益だけでもありません。
何に、いくら費用がかかっているのか
自分の作業時間に見合う収益があるのか
継続的に利益を確保できる仕組みなのか
売上が入金され、必要な支払いができるのか
こうした視点がなければ、忙しく働いているのに生活が楽にならない、という状況にも陥りかねません。
4.利益は「お客さまと自分を同時に守る仕組み」
ここで、利益の意味をもう一歩深く考えてみましょう。
利益は、単に自分だけが得をするためのお金ではありません。
適正な利益があれば、サービスを改善したり、必要な設備を整えたり、学びに投資したり、事業を継続したりできます。
そして、事業が続くからこそ、お客さまに価値を届け続けられます。
ただし、利益が出ているからといって、必ず顧客満足度が高いとは限りません。
利益を生み出す過程で、顧客に本当に価値が届いているかも確認する必要があります。
大切なのは、顧客への価値提供と、自分自身の事業の持続可能性を両立させることです。
売上は事業の規模を示す数字。
利益は、その事業が費用を差し引いて、どれだけ収益を生み出せたかを示す数字。
そして、利益と資金繰り、顧客への価値を合わせて見ることで、ビジネスの実態が少しずつ見えてきます。
5.ビジネスを始める前に、3つの質問をしよう
副業や新しい事業に興味を持ったときは、次の3つを自分に問いかけてみてください。
① 売上ではなく、最終的にいくら残るのか?
仕入れ、広告、送料、手数料など、必要な費用を差し引いて考えていますか?
② その利益を得るために、何を差し出しているのか?
お金だけでなく、時間、労力、人間関係、継続的な購入負担も確認できていますか?
③ その仕組みは、無理なく続けられるのか?
一時的な売上ではなく、顧客に価値を届けながら、継続して利益を確保できるでしょうか?
この3つを確認するだけでも、華やかな宣伝と、実際に取り組む価値のあるビジネスを区別する手がかりになります。
最後に:あなたは何を基準にビジネスを選びますか?
売上の大きさに憧れること自体は、悪いことではありません。
大切なのは、その数字の裏側まで確認することです。
どれだけ売り上げたかだけではなく、どれだけ利益を残せたのか。
どれだけ働いたのかだけではなく、どれだけ価値を届けられたのか。
そして、その活動を無理なく続けられるのか。
ビジネスの目的は、数字を大きく見せることではありません。
お客さまに必要とされ、自分自身も健全に活動を続けられる仕組みをつくることです。
「月商100万円」という言葉に出会ったとき、あなたは売上の大きさに注目しますか?
それとも、その裏側にある利益と仕組みを確かめますか?
その判断基準が、これからのビジネス選びを変えるかもしれません。
参考資料
中小企業基盤整備機構「経営自己診断システム:個別指標一覧」
https://k-sindan.smrj.go.jp/viewpoint/explanation
日本政策金融公庫「ここは押さえておきたい決算書の見方」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/keiei/support-plus/detail/column.html?id=c55_392
中小企業庁「中小企業の会計 31問31答:『損益計算書』って何ですか?」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/tools/2008/06.html
※本記事は会計・経営の基本的な考え方を紹介するものであり、特定の事業の収益性を保証するものではありません。